Life with Football

「世界一周を通して気付いた『予測不可能』という魅力」

#04 ア式蹴球部男子2年 石丸泰大

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第4回のLife with Footballでは、東京大学ア式蹴球部男子に所属される石丸泰大さんにお話を伺いました。大学入学と同時に、1年の休学を決意し「世界一周の旅」に出た石丸さん。「サッカー」を切り口に一人で世界各地を回り、様々な方々や貴重な経験に出会う中で、なぜサッカーに魅了されるのか、そして「自分探し」の問いにおいて、一つの答えを見いだすことができた、と目を輝かせながら教えて下さいました。10代最後の歳、初めて日本を飛び出した彼は、どのようなことを感じ、考えたのでしょうか。

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石丸泰大

東京大学ア式蹴球部男子2年。昨年度、大学を1年間休学し、「サッカーを切り口として、世界の人々や文化と交流する」をテーマに、インターンやサッカーボランティアを行いながら、9ヶ月間、23カ国を訪れる。

【サッカーを人と人を“つなぐ”存在として】

―サッカーを切り口とされたんですね。

そうですね。休学をして世界一周をする、と決めた当初から、サッカーを切り口にしようとは思っていたんですが、昨年1年間、旅をする中で改めて、サッカーは人と人を繋ぐ存在だと、身を以て実感しました。例えば、マサイ族の子供たちなどとは、互いにコミュニケーションをとれる共通言語がありませんでしたが、ボールがあってサッカーをしたことで、すぐに仲良くなれました。子供たちがサッカーをしていたら、僕がそこに入っていってボールを奪ったり、技を見せたりするんです、そうしたら一緒にサッカーができて。時には、ゴミでできたボールを使ってサッカーをしました。サッカーをすれば、仲良くなるのに時間なんて必要ないんだ、ということを改めて感じました。

 

(ゴミでできたボールを使って遊ぶ子どもたち)

 

ですが、旅の初めは、他者との交流に悩む場面もありました。訪れた国々の方たちの視点に立つと、自分は、突然やってきて、すぐにいなくなる存在にすぎず、どのように交流したらいいのかな、と。けれど、最初に訪れたカンボジアで、自分と地元の方々を繋いでくれたのも「サッカー」でした。自分にとって、カンボジアは初めての海外だったこともあり、新鮮さや戸惑いが入り混じっていたんですが、こうして海外に来て、挑戦を決めたからには必ず成長して帰りたい。その決心から、街のフットサル場で、自分も一緒にサッカーをしたそうに眺めていたら(笑)、地元の方が話しかけてくれて、輪に入れてくださったんです。この出会い以降、色々な方とコミュニケーションをとれるようになり、その後の旅でも様々な出会いをすることができました。旅を通し、「サッカーを切り口に」という文章は「言葉」の領域を超越して、その奥深さを体感せずにはいられませんでした。

 

【サッカーの爆発力と可能性】

―カンボジアでは、フットサル場での出会いがあったんですね。

そうなんです。実はその後、カンボジアのフットサル場で、サッカーが持つ溢れるほどのエネルギーを感じた出来事があります。カンボジアでは、プロチームの「ソルティーロ アンコールFC」でインターンをさせて頂いていたのですが、その活動の一環として「フットサル大会」の開催を決意し、活動していました。開催までは色々大変なこともありましたが、当日の盛り上がりはもう…言葉にできないほどで。本当に大盛り上がりでした。その状況を目の前にした時、開催してよかったという安堵の感情以上に、「サッカー」という存在が生み出す計り知れない爆発力に息を呑みました。クメール語も話せなければ、英語も上手じゃない、そんな18歳の外国人大学生が突然一人でやってきただけなのに、これだけの熱い盛り上がりを生み出せちゃうって、本当にすごいなと。それはサッカーが有するエネルギーの爆発力であり、可能性だと思いました。

 

(カンボジアでフットサル大会を開催した時の様子)

 

サッカーのエネルギーといえば、もう一つ印象的なことがあります。旅の後半で「ボカ」の試合を観戦したんですが、サッカーが持つ際限ない爆発力を肌で感じました。サポーターが世界一熱狂的、と聞いていたので、前々から行ってみたいと憧れていたんですが、試合が始まると、サポーターの人たちは呼吸しているように歌い、ピッチ上の動きに合わせて踊るんです。柵を登って応援している人もいれば、ボールを蹴っている人もいる。柵にパーカーを結びつけてその中に座っている子どもたちもいる。自身の五感へ響いてくる初めての「空間」に「非日常」を感じずにはいられなかったですし、サッカーの新たな可能性を学び、もし自分がこのボカでしか奏でられない「感動と興奮」の渦を創出する側に回ったなら、と無意識に想像してしまうほど心が震えました。

 

(ボカの試合中に)

 

【自分の世界の広がり】

―アフリカではボランティアもされたと伺いました。

そうですね、サッカーを契機にボランティアに携わらせていただきました。自分だからこそできることはあるのだろうかと深く考えたり、悩むこともありましたが、「サッカー」という存在があったからこそ、日本にいたら交流することのなかった子どもたちと関わることができ、アフリカでの生活の状況を知ることができました。子どもたちの生活状況を知る中で、日本で送っていた自分の生活が決して当たり前ではないことを強く感じ、貧困問題や支援への関心が大きく深まって、日本に戻ってきた現在も支援プログラムなどへ積極的に参加したり、アフリカで出会った方と連絡を取ったりしています。また、開発経済学への興味も生じるなど、サッカーが切り口ではありましたが、サッカーボランティアは自身が多岐にわたる分野へ新たな関心を抱く、重要な契機となりました。百聞は一見に如かずだと改めて感じます。

 

(アフリカで目にした光景)

 

―これまでは「サッカーをプレーする」側であった一方、今回の旅では必ずしもそうでなかったと思います。その差による気付きなどはありましたか。

自分自身、今までサッカーをプレーしてきた中で学んだことが多くあり、一人の人間として成長したと自覚する部分があります。その経験と感情に基づいて、ヨーロッパでは、スポーツビジネスをされている方にお話を伺ったり、現地でのサッカーの位置付けを自分なりに考えたりしていました。元々、同じ練習をしても生じる実力差の原因に興味があった、ということも、ヨーロッパにおける自身の行動や焦点に影響を与えた一因かもしれません。強く感じたのは、特にドイツで「プレイヤーファースト」の考えが深く根付いている、ということです。サッカーの練習をする一方、サッカー以外の事象や世界にも興味を持ち、打ち込める環境がより整っていると感じました。スポーツを一つの文化として捉え、その文化を享受するという考えや、サッカーの実力自体のみならず、一人一人がサッカーを通し、どのように変化し、成長できるのか、という部分を大事にする考えが新鮮で、素敵だと感じています。

 

(ベルギーにて)

 

【サッカー✖️旅 から確立した軸】

ー9ヶ月の濃密な旅を終えられた今、今後していきたいことや想いの軸はどのようなものでしょうか。

大きく分けると三つあります。一つ目は「恩返し」です。インターン、ボランティアなど、様々な場面で、力不足を感じていました。その一方、本当に多くの方に手を差し伸べていただいたので、自分自身をアップデートさせ、今後恩返しをしていきたいと思っています。二つ目は、世界にもっと誇れる日本にすることに貢献したい、ということです。日本にいながら自分が日本人であることを意識することはありませんが、9ヶ月間、旅をしている間ずっと「外国人」として過ごし、価値観や考えの違いに幾度もぶつかりました。一方で、アニメといった日本の文化の話をされると、純粋に嬉しく、その度に「自分は日本人なんだ」ということを感じるんです。笑顔で日本について話してくださる方が世界各国にいるのは、これまでの日本人の方が築いてきた信頼や実績があったからと思います。それ故、「世界にもっと誇れる日本にしていく」ことに自分も貢献したいと思いました。三つ目は、サッカーの可能性を信じ、色々なことに挑戦してみるということです。一年間を通し、サッカーに視野を広げてもらったことは紛れも無い事実です。時には、会話の切り口にもなって人と人を繋ぎ、一緒にボールを蹴って仲良くなる。ボカの試合のように、心を大きく動かすこともあるし、生活している人たちのよりどころにもなる。サッカーの技術だけではなく、サッカーを通して、人や想い、感動を求める場合があって、コミュニティとしてのサッカーの役割も感じました。そのチームだからこそ届けられるものがある、ということを感じ、それは「東大ア式蹴球部のサッカー」にも通じるのではないかと感じています。

 

【サッカー✖️旅 から サッカー✖️自分へ】

―旅などを通し、サッカーへの想いの変化や、自身とサッカーの繋がりについて思うことはありますか。

今回の旅は「サッカーを切り口に」という一方で、「自分探しの旅」という一面も包含していました。自分が本当に好きなことは何か、自分が本当にしたいことは何か。9ヶ月という長くも短くもある期間を、慣れない海外という地で、且つ、新たな出会いと貴重な経験を日々積み重ねながら過ごす中で、自分と向き合い続けていました。その中で導き出した一つが、自分にとって、サッカーをする時ほど熱狂する瞬間はない、ということです。きっとこの事実こそ、様々な局面で色々な選択肢に出会うにも関わらず、サッカーを選択し続けている理由なのだと思います。けれど、今度は、じゃあどうしてサッカーに情熱を持ち続けられるんだろう、という疑問が生じました。その答えが見つかったのは、意外なことに、「旅」という存在について思考を巡らせた時からでした。 旅とサッカーを結びつけた9ヶ月を通し、一見共通点のないように思われる二者の間の親和性を感じるようになりました。それは「予測不可能」ということです。サッカーは「ミスのスポーツ」と言われるように、常に上手くいくわけでも、常に思い通りにいくわけでもありません。時々刻々と状況は変化し、様々な要因に影響を受けます。こうした点は、旅にも見られるので、二者には繋がっているところがあるなぁと。 自分がこのことを思い始めた契機は、旅の初め頃に遡ります。旅を始めて少し経ったころ、あることに気がついたんです。「あ、そんなに観光好きじゃないのかもしれない」って。旅人として致命的ですよね(笑)一応、旅をしている中でいわゆる観光名所とかにも行くわけですよ。アンコールワットとか、エッフェル塔とか。でも、どうにも心が動かされなくて。「写真で見たのと同じじゃん」みたいな。インターネットが発達していなかったり、モノクロ写真しかないような時代だったら違ったかもしれないんですけど、どんな観光名所を訪れても教科書の確認作業をしてるようにしか思えなくなってきてしまったんですよね。 じゃあどんなときに心を動かされたかというと、想定していなかった何かに出会ったときです。いま話したような観光って基本的には予測通りのことしか起きないんですよね。けど、旅をしていたらそうじゃないこともたくさん起こるんですよ。予想だにしていなかった出会いとか経験に溢れていて、その一つ一つが全て刺激的でした。これだけモノや情報が手軽に入手できるようになった時代だからこそ、簡単には手に入れることができないことにすごくワクワクするんです。ていうことに気がついたときに「あ、だからサッカーが好きなんだな」ってすっと腑に落ちたんですよ。 もうすぐ成人するというのに、小さい頃からなにも変わらず懲りずにボールを追いかけ続けているんです。プロになれるほど上手いわけでも、これが直接なにか将来につながるわけでもないのに。でも、サッカーにはさっき話したようなことに通ずる魅力が確かに詰まっているんですよね。普段の生活では得ることのできないたくさんのものが。別にそれがサッカーである必要はないと思うんです。でも僕にとっては、それがサッカーだったんだと思うんです。 この気付きは間違いなく、自分にとって大きな転機だと思いますし、今後も、自分を自分たらしめる大切な鍵の一つになっていくと思います。旅から得た気付きや感謝の気持ち、心が震えた経験、そして「サッカー」の存在を通じ、一人の人間として面白いと思ってもらえる人間になると同時に、自分が信じるかっこいい生き方を貫きたいと思っています。

 

エピローグ

今回、記事に書き納めることはできませんでしたが、サッカーに関連した事柄以外にも、他者への接し方や感謝の気持ち、生き方など、たくさんの素敵な出会いを通して多くのことを学んだと語って下さいました。この記事では、石丸さんが旅を通して出会われた感動や興奮、葛藤を、ほんの一部しか表現することができません。けれど、インタビューの際、とても生き生きと話される姿がすべてを表していたように思います。東京大学運動会ア式蹴球部のホームページ内、「特集 東大生×サッカー×世界一周!?」から、石丸さんが旅をしながら書かれた臨場感のある文章を読むことができますので、ぜひご覧ください。 (こちらからご覧ください)

Interviewer

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かれん

2年生。背番号14のDF。サッカーは大学から始めて、秋入部。御殿下サッカースクールの学生コーチをしている。