Life with Football

「サッカー×地域創生から森林研究へ」

#09 東京大学4年、Jリーグインターン生 金子竣亮

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第9回のLife with Footballでは、東京大学農学部4年生で、Jリーグでのインターンをされていた金子竣亮さんにお話を伺いました。 Jリーグでのインターンをはじめとしたサッカーを使った地方創生に関わる活動などについてお話ししていただきました。 Jクラブの現場での体験を通して得た学びや思いとは?

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金子竣亮

東京大学農学部森林環境自然科学専修4年。大学2年を終えた後1年休学してJリーグのヴァンフォーレ甲府でインターンをする。現在は森林利用学研究室で林業の事業計画や経営シミュレーションについて研究している。

ー自己紹介と大学入ってからの経歴をお願いします!

2016年に東大に文2で入学しました。経済に興味があったのですが、塾のバイトに精を出して進学できず、2018年度の進振りで森林環境自然科学専修に入りました。1年休学してJリーグのヴァンフォーレ甲府で長期インターンをして、2020年に復学して森林利用学研究室に入りました。

農学部に入ったのは、進路を選ぶときにサッカーに何かしら関わりたかったからです。経済ならサッカーが地域社会に与える影響をやりたいと思っていたし、農学部なら芝生に関連づけることができるなと思っていました。

 

ーなぜサッカーに興味を持っていましたか?

もともとバスケ部でサッカーはやっていなかったのですが、中高でサッカー観戦をしていて辛いときに支えてもらっていました。

また、ポルトガルの研究チームによる研究で、好きなサッカーチームを応援しているときの人の脳波が恋愛している時と一緒という研究があって。塾のバイトを3年やっていたので心理学っぽいことに興味があり、サッカーってこんな効果もあったのかと面白く思いました。

 

それは初耳です。サッカーってやっぱり面白いのですね!

甲府インターン時の試合準備で撮影したもの。

 

ーJリーグのインターンをしようとご決断されたのは何故ですか?

2017、2018年あたりにJリーグのデジタルマーケティングが盛り上がっていて、このタイミングで関われたら面白そうだなと思いました。外側からのコンサルティングとかは情報があるのですが、Jクラブの内側では何が起きているのかわからなかったためインターンしてみようと思いました。

 

ーなるほど!インターンはどういったことをされていましたか?

なんでもやっていいけど、メインでは毎週末のホームゲームでクラブ直営の催し物の企画や運営をしていました。企画は毎年の軸が出来上がっていたため、それをピックアップしてやっていた感じですね。体使う系、SNSでの企画系、クジなどをやりました。

 

ーそのときにできた人との繋がりはありますか?

クラブスタッフの方にインターンした理由を聞かれて芝生に興味があると言ったら、いろんな人に電話をかけてくれて、AC長野パルセイロの芝生管理の方と繋がることができました。また、清水のナショナルトレーニングセンターの方にも繋いでもらってどう管理をしているかというお話をさせていただきました。

 

ーグラウンド管理って大変ですよね。

ほぼ毎日仕事はあるそうですね。芝生刈って肥料撒いて除草剤を撒いて。あと、雑草は手でも引っこ抜いていました。素人には雑草なのか芝生なのかわからないようなものでした。それもセンシングや画像解析を使うとかできるのかなとかは思いました。

農業っぽいというかもう農業ですよね。それこそ湿りすぎると呼吸ができなくなるということもおっしゃっていて、水分量をチェックしたりとか植物遺体があると育ちが悪くなるからちゃんと取っていたりとかもしていました。

 

ースタジアムの芝生が農業という考え方をしたことはなかったです!そういう世界を知れるのは面白いですね。

 

甲府インターン時のスタッフ交流会での写真。

 

ーインターン中に1番印象に残った出来事は何ですか?

印象に残ったというか、自分がまだまだだなと思った出来事が2つあって。

インターンではないけれど、スポーツを使って起業しようという起業家たちのインキュベーションプログラムの埼玉スポーツスタートアップというところにも顔を出しました。芝生で何かしたいなとざっくりした考えだったんですけど。

ざっくりビジネススキームとかは考えられましたが、例えば実際に芝生をエネルギーやマテリアルに使うときの技術的な話は解決できなくて。じゃあやっぱりちゃんと勉強しなきゃだめだなってなりました。

もう1個は、FC今治が主催している地方創生プログラムに参加したときです。サッカーを使ってどうやって地方を活性化させるかという話だったんですけど、サッカークラブの人も「サッカーだけじゃ地方は盛り上がらないよ」ってある意味で割り切っているところもあって。だから、クラブを使って何かしてよというスタンスを取っていました。

 

今治商店街。活動フィールドになった場所。ここの活気をどう取り戻すか?が活動の目標だった。

 

ーサッカークラブがあって、サッカー自体で盛り上がるわけでなく、その存在を使って別のことで盛り上げて、ということですか?

そうです。わかりやすく言えば大企業に運営を任せたりスポンサーについてもらうことで、広告費と広告効果でwin-winになったり、スポンサー同士の交流の場になったり。メルカリ、サイバーエージェントとか福岡のマネーフォワード、スマートHRなどIT系のスタートアップは結構そういうのをやっているようです。

その地方創生プログラムの最終的な成果物としては、どうやったら地方は盛り上がるかというのを、岡田武史さんをはじめとするすごい人たちにプレゼンするんですよ。ただ、大学生なので、関係ない第三者を巻き込めるような手持ち、手札がないんです。プレゼンをした後も、そういうのをやっても地方は変わらないだろうな、というぬるっとした感触だけで帰ってきたというのが、挫折ではないけれどだめだなと思った経験でしたね。

 

ー面白そうですが、難しそうですね…。結局どういった提案をされましたか?

岡田さんから大学生らしいぶっ飛んだ提案してよと無茶振りを受けていて(笑)

それこそそのときも天然芝を使って何かできないかと考えていて、シャッター街の商店街でコンクリートを土に戻して、水耕栽培で育てた芝生を植えてサッカーコートにしようという提案を最後にしたんですよ(笑)

 

ーぶっ飛んでますね(笑) 反応は?

岡田さんは面白いと言ってくれて、地元の人もめっちゃいいじゃんって言ってくれたけど、それがどれくらい地域にメリットあるの?ってなりました。サッカーの街としてブランディングして有望なサッカー少年たちが集まってくるなら長期的にはいいことなのではという話にはなりましたけどね。

 

ーなかなか実現までつなげるのは難しいですよね…

ですが、そういうことを考えていけるのって楽しい世界でもありますね!

 

今治での活動の打ち合わせの様子。

 

ー今まで地方創生に関わってきたようですが、これからやりたいこととかはありますか?

今は森林の研究の方でいっぱいいっぱいですね。

 

ー研究大変ですよね…。サッカーと森林の研究を繋げて考えたりはしますか?

シチュエーションは似ているんですよ。上手いこと使えばいい資源になるだろうなと。それこそ観光資源になるし、環境資材とかエネルギー資源にもなる。それを上手いこと活用できていないというのが。

あとは森林とサッカーを繋げる事例として、FC今治で里山スタジアムを作ろうとしているそうです。里山をコンセプトにしたスタジアムで、まだ構想段階ですが…

非住宅でどれだけ木を使うかという課題もあるので、スタジアムとかクラブハウスとかで使って欲しいですね。

 

ー最近よく聞きますよね。

町田ゼルビアのクラブハウスもこの前できて、国産の木を使っていますし、それこそ新国立競技場で全国各地の木を使っていますよね。

 

ーですね!

 

今治夢スタジアム。バックスタンドから撮影したもの。

 

ーJリーグでのインターンを経て、学業へのモチベーションは上がりましたか?

そうですね。やっぱり何かしらの専門性、武器は持っておいた方がいいというのは思いましたね。例えばデザインとかPythonでのデータ処理とか。

確かJリーグの収入って半分以上スポンサー収入で、リレーションシップマネジメントの業務割合が大きいんですけど、事業をスケールさせることに力を割きにくいのが今のJクラブの運営サイドの課題だと思っています。

東大だと1、2年生ではほとんど専門を学ばないので、こういう抽象度の高い問題を解決できるような、専門性、武器がなかったというのを後悔しています。もう1回行ってみたら面白いかもしれないけど、もう戻る時間ないなって(笑)

まあ後悔はあるんですけど、そのお陰で知識を身につけるモチベーションは高まりました。あと、そのタイミング行かないと会えない人とかもいたので、どの選択肢を取ったとしもそれはトレードオフだと思うのでそれはよかったと思います。

 

ーそのタイミングで行かないと出会えなかった人は例えばどんな方ですか?

当時は森林についてよく知らなかったし、あまり興味がなかったのですが、「里山資本主義」という本を書いている藻谷浩介さんという方にお会いしました。この本のメインの主張をざっくり言うと「地元の木を使って製材所に卸して使わなかった端材とかをバイオマスに使えば市場経済に囚われず、里山単位で地方経済を回していけるのでは」というものです。FC今治のプログラム終了後、今治駅の近くの蕎麦屋で偶然お会いして10分くらいお話しする機会がありました。農学部で森林をやっていますって自己紹介をしたら、「これから、林業も、農業水産業も間違いなく伸びるからちゃんと勉強しなさい」って言われたんですね。そこが僕の森林に対しての見方が変わったタイミングですかね。その出会いがなかったら森林にあまり興味がないまま終わっていた気がするので。今振り返れば藻谷さんとお話ししたのがターニングポイントでした。

 

ー偶然の出会いってすごいですね…!

サッカーの良さやこれからこうなるといいなという思いを聞きたいです!

今、日本全国に少なくとも50数クラブがあって、野球とかに出せない、首都圏に人を集めるだけではないバリエーションがあります。他のスポーツに比べてサッカーは1回に入る観客の数が多く、いろんな人が毎週末、地方に行ったり来たりするポテンシャルが大きいです。そうすると自分の好きなチームがあって毎週末そこに行くってQOLが上がりそうだなって。定量的には話せないですけど。

将来的にはそういうサッカーの使い方があれば、いろんな人たちが自分の好きなクラブを持って、日本全国のスタジアムがハブになって地方の経済が循環していくような、そういう仕掛けができたらいいなというのは思いますね。

Interviewer

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つむ

3年生。背番号7のFW。中高ソフトテニス部で、大学からサッカーを始める。昨年主将を務めた。