Life with Football

「生徒一人一人の成長に特化する『オーダーメイド』のサッカースクール」

#08 SOLTILO FAMILIA SOCCER SCHOOL CAMBODIA 海野貴裕さん

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第8回のLife with Footballは、カンボジアでサッカースクールを展開し、子供たちに笑顔や希望を届けている海野貴裕さんにインタビュー。現在では累計150名、様々な国籍の生徒さんが集まるサッカースクール。その事業立ち上げから現在に至るまでの想いやお仕事に迫ります。

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海野貴裕

幼少期から大学までサッカーに取り組み、藤枝東高校や関西学院大学で活躍。その後、留学を経て就職するも、「今まで自分が取り組んできたサッカーで恩返しがしたい」との思いから、働いていた会社を辞め、カンボジアでサッカースクールを始める。現在もSOLTILO FAMILIA SOCCER SCHOOL CAMBODIAでご活躍されている。

ー現在のお仕事内容をお伺いさせてください。

 

僕は、SOLTILO FAMILIA SOCCER SCHOOL CAMBODIAで活動しています。東南アジアにあるカンボジア王国の首都、プノンペンを活動拠点にサッカースクールを展開しています。2016年11月に創設したので、今年で5年目になりますね。現在は現場でコーチングするのでなく、日本でパートナーシップを集める活動をしています。新型ウイルスで簡単に行き来ができないことも影響し、長期間日本で活動しています。

 

ーいつ頃からサッカーに関わるお仕事をしたいと思われていたのでしょうか

 

僕が競技としてサッカーをしていたのは6~21歳まででした。高校選手権目指して、インカレを目指して、次のステージで目標が見つからず、競技としてサッカーをすることをやめようと思ったんです。大学を休学した一年間と、大学卒業後、今とは別の企業で仕事をしていた22歳から25歳まではサッカーから完全に離れていました。

 

 

ー休学され、別の企業に就職されているんですね

 

そうですね。まず、一年間の休学時には留学したのですが、今までサッカーを通してしか見れなかった世界が、物理的にも精神的にも広がりました。留学先で様々な方々と関わる中で「自分の好きなことをしよう」「自分に正直でいよう」という気持ちを再確認したんです。

 

ーその思いが今のお仕事に繋がっているのでしょうか

 

実は、フィリピンのセブ島に留学していた時、入学/卒業時期が同じだったクラスメイトがいたんですね。彼が先に留学を終え、決まっていた就職を辞めてカンボジアに行っていたんです。僕は就職したんですが、彼から「カンボジアでサッカースクールとプロサッカーチームをしようと思ってるんだけど」という話をもらって。最初は直接的じゃなくて、「誰かいい人いない?」という話だったんですね。でも、よくよく聞いていくと、「これはタカ(海野さん)に言ってるんだよね」と言われて。辞表を提出して2週間後にはもうカンボジアにいました(笑)。

 

 

 

ー会社を辞め、カンボジアに行く。その大きな決断に迷いはなかったのでしょうか

 

会社を辞めるって、失うことを書き出していくと多いし、不安に思うことや恐怖もいっぱいありますよね。加えて、これから立ち上げるスタートアップの事業を、日本でなくカンボジアでするって、恐怖もやっぱりあったんです。でも、今まで自分がサッカーをやってきて、いつかはサッカーの力で恩返しがしたいな、サッカーの力で何かしたいなと思っていたので、行かないことの方が怖くなってきて。恐怖や不安より行くことのワクワク感が勝っていたので、すぐ行動に移せたんだと思います。

 

 

ー実際にカンボジアでお仕事を始められた時はどのような状況だったのでしょう

 

カンボジアへ最初に行ったのは2017年2月でしたが、その時は一人のカンボジア人コーチと僕の2人でスタートしたんですね。なので、コーチはもちろん、営業も会計も…全てしていたんです。あまりに「全て」しなくてはいけなくて、何をしたら良いかわからなかったくらい(笑)。全部自分でできるという良さもあるんですが、事業/会社として取り組むとなると、お金がないとできないことの方が多くて。

 

日本にもSOLTILOという会社はあるんですが、僕らのサッカースクールは独立採算制といって、日本からの送金を一切受けていないんです。というのも、多くの学生や企業が取り組んでいることもあり、カンボジアは「ボランティア」や「海外支援」のイメージが強いかもしれませんが、僕たちはちゃんとその土地で事業を回していくことを大事にしているんですね。つまり、完全に自分たちで事業を進めていくので、自分たちが稼げなければ事業が継続できない。責任を伴う崖っぷちの状態が続いていました。

 

ーそうだったんですね…

 

そのため、僕らの本来の理念である「サッカーを通して夢や希望を持ってもらう」という部分は、事業を始めたばかりの頃は実現できなかったです。日本と違ってカンボジアの子供たちは、教育をなかなか受けられなかったり、サッカーを教えられる人がいなかったり…貧富の差などの解決を目指す以前に、自分たちのサッカースクールを存続させなければならない状態だったんです。

 

スクールを始めた当初は生徒数が12名だった時もありました。レッスンに生徒がいなかったり、一人だったこともあって。それでも今では累計150名ほどの会員の方がいらっしゃって、今があるのは、最初から通ってくださっている方々が口コミをしてくださったり、地道にコツコツ取り組んできたからだと感じます。

 

 

また、スクールを始めて一年半ほど経った頃、ご縁あってパートナーさんがついてくださったこと、そして、現在一緒に仕事をしているメンバーで、僕のかつてのチームメイトがカンボジアに来てくれたことは大きな変化の一つでした。そこから自分たちがしたいことに向け、少しずつ動き始められたように思います。具体的には、地方にサッカー部を創部したり、首都のサッカースクールのみならず、カンボジアコーチによるカンボジア人向けのサッカースクールを展開したりすることができました。

 

実際は目の前のことに必死で、社員やメンバー、パートナーさんや生徒、保護者に色々な迷惑をかけたり、失敗や問題があったりしますが、周りの方に支えていただいてここまで走ってくることができましたね。

 

 

ースクールを運営されるにあたり、特に意識されているのはどのようなことでしょうか

 

生徒の「成長」です。サッカーの技術のみならず、精神的な成長にも力を入れています。生徒さん一人一人に個性があって、目標も、サッカーをしているモチベーションも違うんです。サッカーはグループ競技ですが、一人一人を徹底的に分析するんですね。「オーダーメイドの接し方」を大切にしていて、生徒によってかける言葉だったりも変えています。

 

 

ー具体例をお伺いしてもよろしいでしょうか

 

そうですね、例えば、自信がない子って結構いるんです。消極的だったり受け身だったり…何かする時、前に出るより、後ろで何かしてる、といった子がいるんです。サッカーを始めても、最初はその姿勢がいつも通り出てしまうんですが、コーチたちが全力でサポートしていくんですね。周りの子達も巻き込んで、保護者とも面談して…色々なアプローチをしていく中で、その生徒さんたちはサッカーがとっても好きになって。今ではもう自分で発言したり、練習前に自分で練習したりしています。しかも、サッカーのみならず、学校生活でも積極性が増したそうなんです。

 

生徒さんとスクールで会う時間は1週間に一度、2時間ほどで、その時間内で何かを変えるのはどうしても難しい時があります。そのため、「サッカー以外の時間をいかに作れるか」「サッカー以外の時間でどれほど深い関係を築けるか」という点を大事にしていて、保護者と密に連絡を取ったり、学校の先生に様子を聞いたりなど、「サッカー以外のことも変えていく!」という気持ちでスクールを運営しています。

 

 

ースクールをされる中で、深く印象に残っていることはありますか

 

3つありますね。一つ目は「お金をもらってありがとうと言われた瞬間」です。お金をいただいてサッカースクールをしていますが、子供の成長を感じてもらったり結果が出てくると、お金をいただく時に「ありがとうございました」って言われるんですよね。感謝の気持ちを伝えていただく、こんな嬉しい瞬間あるんだなぁと思いました。

 

二つ目は「生徒の活躍」です。生徒たちには色んな分野で活躍してほしいと思ってます。「子供の頃、ソルティーロに通ったからこういうことがあって、今の僕があるんだ」なんて言われたらすごく嬉しいんです。この間、15歳の卒業生の生徒が、今カンボジアで一番強いジュニアユースでキャプテンマーク巻いてるってお父さんから伺って、その時すごく嬉しい気持ちで、これがやりがいだって思いました。売上や生徒数が増えることでなく、こういうことがあるからこそ続けるんだと思いましたし、こういった選手や人材を育てることが大切だと改めて感じましたね。

 

最後に、協賛して下さる企業さんや応援してくださる企業さんが増えてきたんですが、「海野だから出すんだよ、海野がやめたら出さない」って言われた瞬間がすごく嬉しかったんです。事業にお金を出していただくことにはなるんですが、直接お話しする中で「僕自身に出している」と言われることは期待していただいていることを感じ、すごく嬉しいですね。

 

 

ーそれはすごく嬉しい瞬間ですね、海野様が日々大事にされている想いなどがそのような瞬間に繋がっているように思います。大切にしているお考えなどがありましたらお伺いしたいです。

 

物事の捉え方を大事にしています。自分では「肯定力」と呼んでいるんですが、もし問題があっても、それは成長するチャンスだと捉えるようにしているんです。

 

例えば、新型ウイルス感染拡大の影響で売上がゼロになった時があったんですよね、学校が閉まったり、グループでスポーツできなかったり…。でもこれもチャンスだと思うようにして、次の行動、次の行動と進めるようにしたんです。起こってしまったコロナのせいにしているとずっと何も変わらないので、コロナだからこそこれができた、とする方が成長できるんじゃないか、1日1時間1秒を無駄にしないことにつながるんじゃないかと思ったんです。

 

また、決断する時に他人軸でなく、自分はどうしたいのかと突き詰めるようにしています。自分で決めたことなら、失敗しても失敗と捉えなければ失敗にならない。後悔がないのではなく、後悔にしないようにしています。どんな結果でも受け入れて、あれがあったから今この成功があるんだって思えば、その選択自体は全部正しかったことになるし、正しかったことにできると思うんです。

 

 

ーとても勉強になります、素敵なお話を本当にありがとうございます。最後に、今後の目標や夢をお伺いしてもよろしいでしょうか。

 

カンボジアから世界で活躍する人材を輩出することが目標ですね。というのも、僕ら日本人は生まれた時に、世界で一番信頼されているパスポートが手に入ったり、憧れの選手が物心ついた時にはいたりしますよね。サッカーだったら三浦和良選手や澤穂希選手、野球ならイチロー選手、ダルビッシュ選手みたいになりたいなど、スポーツに限らず各分野で憧れの方がいます。ですがカンボジアでは生まれた時、既に親や家庭環境で様々なことが決められてしまっているんです。そのため、サッカー選手でなくとも、どんな分野でも、活躍場所も世界でも日本でも、活躍してくれる人材が、僕らのスクールやサッカークラブから出てくれればと思っています。それをみて、カンボジアの国民や子供たちが自国を誇れるようになればと思い今後も活動していきます。

 

 

貴重なお話を、本当にありがとうございました。

 

 

 

Interviewer

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かれん

3年生。背番号7のDF。大学1年生の秋に入部し、サッカーを始める。御殿下サッカースクールの学生コーチをしている。