青木茂
平成2年に、南長野総合運動公園や千曲川リバーフロントスポーツガーデンなどを管理する一般社団法人長野市開発公社へ入社。グリーンキーパーとして芝管理技術を向上させている。廃棄芝から芝生を育成するリバーフロント方式(長野方式)を提唱し、校庭・園庭緑化の取り組みも行っている。
#10 長野市開発公社 グリーンキーパー 青木茂
第10回のLife with Footballでは、長野市開発公社で、グリーンキーパーとして芝管理を行っておられる青木茂さんにお話を伺いました。サッカースタジアムの管理や校庭・園庭の緑化活動に込める思いとは。
平成2年に、南長野総合運動公園や千曲川リバーフロントスポーツガーデンなどを管理する一般社団法人長野市開発公社へ入社。グリーンキーパーとして芝管理技術を向上させている。廃棄芝から芝生を育成するリバーフロント方式(長野方式)を提唱し、校庭・園庭緑化の取り組みも行っている。
長野市開発公社で、AC長野パルセイロの練習場である千曲川リバーフロントの指定管理者としての仕事や、チームのホームスタジアムである長野Uスタジアムの管理を請け負っています。
グラウンド管理の使命としては二つのクオリティを負うんですよ。
一つはターフクオリティと言って芝生の生育、もう一つはプレイングクオリティと言ってプレーのしやすさを追い求めていきます。
芝生は区切りがなく連作なので耕耘(※土を掘り返したり反転させたりして耕すこと)ができないんですよ。なので、土壌に空気を入れるためのエアレーション、いわば更新作業をします。あとは平坦性を保つために砂をいれて整地したりとか。
長野Uスタジアムの芝管理の様子。
農業は土で作ると思うんですが、芝生はプレイングクオリティを保つために砂で作るんですよ。砂ってことは無機の状態だから、そこをどうやってリカバリーするかが芝生の難しいところです。
なぜ土じゃないかっていうのは長い歴史があって、ピッチの芝生を土で育てると踏まれて透水性が落ちて、さっき言ったプレイングクオリティが落ちるんですね。やっぱり芝生の生育っていう点では土がいいんですけど、「プレーする」っていう目的があるからやっぱり砂になるんですね。
でこぼこも、砂であれば土と違ってローラーかけたり上から足したりすれば平らにできる。
あと土は土目があって均一性がないじゃないですか。でも、グラウンドの芝生はどこを見ても同じ色、緑色じゃないですか。やっぱりどこをやっても同じにするには、均一性を保つにはやっぱり砂で作るんですよ。
昔は牧草を育てるみたいに芝生を土で育てていたんだけど、やっぱり透水性(水を通す性質)が落ちて、そうすると病気になったりストレスに弱くなったり。それならってことで、砂で作ってみたんですね。
けど砂で作ると無機の状態だから余計病気が発生する。病気に拮抗する微生物が育たない。
そうそう。それで育たないから、じゃあ何をするかというと、そこに有機物を少し混ぜるとか微生物の住処を提供するとか、肥料保ちもしないから肥料を保つものを入れるとか。そういう土壌改良を砂でやっているんですよ。
コンポスト(※堆肥)で微生物の補給もするし、保肥力を高めるためにゼオライトを入れるとか。
肥料分を吸着しやすい石みたいなもの。有名なものは秋田県の二ツ井っていうところのものだね。
あと投入するものは微生物の住処を作るための多孔質のもので、例えば炭。炭も柔らかい炭だと崩れて目詰まりしてしまうから、椰子殻、活性炭など硬い炭を入れて微生物の住処や酸素の供給を補っています。
うん、針葉樹の炭は草を抑制する作用があるからダメなんだってね。
うん。砂を入れ替えたね。砂もできるだけ粒径が一緒じゃないと詰まっちゃうから、ふるいにかけて洗って作っている業者がいるんだよ。
うん。あと川砂か山砂かもある。川砂は硬くて、山砂は水を持ってしまうんですね。芝生の種類と条件によるけど、Uスタもリバーフロントも冬芝(※涼しい気候が適している種類の芝)だから、透水性を良くするために川砂を使っています。
ゴルフ場ブームがあったときはどんどん入ってきていたんだけど、需要がなくなってきたのか長野県では取れなくなって新潟県から運んできていますね。
やっぱり取るのも費用がかかるし需要もなくなってきたんだろうね。
千曲川リバーフロントのグラウンド。
海外に行くと現地のグリーンキーパーが中心になってスタジアムを作るのが当たり前で、それだけグリーンキーパーは地位のある仕事なんですね。日本はそういうのがないから、公共建築はデザインに合わせて作るのが一般的なやり方です。
長野Uスタジアムはデザインビルド方式といってプロポーザルしてサポーター、グリーンキーパーなどいろんな人の意見を入れて作ったスタジアムで。僕が入らせてもらえることになったのもあって、植物に必要な3要素「水、光、空気」を取り入れやすいスタジアムになっています。光が南側から入りやすいようにしたり、空気が(観客席でなく)ピッチレベルで入るような流れを作ったり、地温が1番低いときや試合の合間に短時間で水を撒けるようにピッチ内に一斉に撒けるようにしたりしました。色々な人の思いが詰まったスタジアムです。
他の屋根付きスタジアムだと扇風機で風を送ったり地面に冷暖房をつけたりするのに比べて、できるだけ自然の力で芝を管理しようっていう意味合いは強いと思います。
ただ、長野Uスタジアムは自然を保っているのでどうしても悪い時期は出てきてしまうんだよね。
長野Uスタジアムの下の通風孔。これによって風通しが良くなる。
悪い時期は夏終わった後で、お盆明けから10月頭くらい。なぜかっていうとサマーディクラインと言って、夏の疲れが出てしまう。冬芝のいい時期を通り過ぎて、呼吸が増えて、蓄えていた糖や炭水化物を呼吸で使って消耗してしまう。芝生の体力がなくなってしまってそれが戻るまでに時間がかかる。
そうそう。でもコンディションを上げるにも芝生の体力がないからどうしようもない。仕方ないけど、管理しないといけないからどうやってリカバリーできるかを学んでいかないといけない。
けど学ぶチャンスが1年に一度しかないんだよ。だからその1回を経験値として蓄積して改善していくしかない。
全国のキーパーとのネットワークを持っています。けど四季はあっても土地が違うから、特定のスタジアムの管理となるとほぼほぼ経験値になってくるね。
そうそう。農業では画一的な指標が出されてはいるけれど、やっぱり土地によって変わるものだからね。芝生ではそういうのもないからね。
大まかな計画はあるけど、ほとんど見てないよね。お金をどれくらい使うかくらい。悪くいうと行き当たりばったり。
うん、現地を見て「あ、このタイミングだな」ってなる感性の方が強い。
今僕が他の仕事もあって現場を離れるようになって、ずっと張り付いているわけにいかないから、今は一つの基準として月暦に合わせて管理しています。満月とか新月とかに合わせて。月で合わせてやってみると、資材のポテンシャルが発揮されやすいのかなと思い始めています。
以前リバーフロントの現場にいたときは選手にひたすら意見を聞いていました。プレーヤーファーストだからね。ただ、最近は現場から離れたところで管理をしているし選手も入れ替わって接点も少なくなってきていますね。
使う使う。多くの人が使うから、Uスタを本拠地としている長野パルセイロに対して、しっかりもてなせているかって言うとちょっと…
頑張っても芝の状態の結果が全てだから。今はネットで(芝生について)言われるよね。芝の状態がいいのが当たり前だから、いい時期は褒められないんだけどね。
悪い評価をされてもそう言うのをこの野郎って思ってまた勉強するんだけどね(笑)
そういう条件の中でも、やっぱり限られた時間の中で結果を出さないといけない。それが仕事だよね。
試合が終われば次の試合までにどこまで押し込んで作業していい状態にできるか。
長野Uスタジアムの様子。南側が開けて山が見える。
100点満点はないから、もっとよいものをという欲を持てることかな。
プレーのしやすさもだし、以前はグリーンキーパーの仕事が「痛んだものを直す」だったのが今は「痛まない芝生」を目指すように変わってきている。
グリーンキーパーは海外だと名誉ある仕事で、ゴルフ場であったり、グラウンドであったり、そういったスポーツに裏方として関わるキーパーの仕事に憧れて目指す人がいるんだよね。ゴルフだと優勝した選手とそのコースのキーパーがグリーンジャケット着て写真を撮るとか、そういうステータスがある。
日本ではそういうのはまだないので、目指されている職業ではないのかなというのはあります。ただ、日本の技術って四季が明確にある中で、グラウンドを年中キープする技術としては世界でトップクラスだと思うんですよ。職種としてはステータスがないというのは自分達がこれからつくっていかないといけないなと思います。
サッカーに関しては、本番は天然芝でやるのに、練習は人工芝だったり、土だったりと、割と理不尽なスポーツ。それも我々の仕事がしっかりしてくれば変わるのかなと思っています。
長野市開発公社は子供たちが天然芝で練習できる環境を目指して長野パルセイロと一緒にやってきました。子供たちは天然芝があることで怪我をしにくくなって、(サッカー選手になるという)夢に近づくことができると思うので、そこに貢献していきたいです。
僕は公社に入ってから、芝生を扱うところに配属されました。最初はよく分からなくてクレームを沢山受けたことで、いいものを作ってやろうと思ったんです。
あとは、地域の役に立ちたいという思いでやっています。日本にはまだまだ芝生という学問がないから日本中を歩いて、いろいろな人と知り合って、ネットワークをつくってやっています。生き物が相手で、緊張感のある仕事ではあるなと思うよね。
長野Uスタジアムでの試合の様子。ピッチと観客が近い。
(日本ではグリーンキーパーの知名度が高くないから、)僕たちがスポーツという狭い業界の中で技術を使うだけでなく、地域の子どもたちにも還元し、自分たちのことも知ってもらいたいということではじめたのが一つ。
昔は「芝生に入らないでください」っていうのが当たり前だったけど、それは目的にあっていないよね。芝生があるから雨の日でもできるとかそういった技術を、スポーツをやっている子どもたちだけでなくて地域の子どもたちみんなの未来に貢献できるように使っていきたいなと思っています。
最初の頃は、我々の仕事は衣食住に直接かかわるものでないから世間になかなか必要性を訴えられなかったりする。その中で、リバーフロントで出た芝生の廃材、いわばゴミをグラウンドに捨てたらそのグラウンドが芝生になるって面白いじゃんと思って始めました。しかも、それをやることで、子供たちが芝生で楽しく遊ぶことが増えて、将来のパルセイロの選手がその中から出てきたら面白いなと思ってやっていたんです。
続けるうちに、子どもを外で遊ばせることって今の時代とても貴重なんだなと思うようになって。友達と外で遊んで、何もない芝生の中で喧嘩したりとか。そういった子ども時代の遊びの不足とその影響が社会でも問題になっている。幼稚園、保育園の小さい頃に外で一生懸命遊んでもらえる環境を提供するのは、我々としては素晴らしい仕事だなと思ってやっています。
そうそう。この間、長野市内の高校に校庭緑化の提案をした時に、校長先生が言うには、砂埃があると女子生徒が体育の選択をしてくれないと。芝生にしたら選択してくれるようになるんじゃないかってお話されていたりもしたんだよ。
グラウンドの芝生は耕耘できないから穴をあけて間引いて空気を入れるんだけど、それで出たものはゴミになってしまうんだよね。芝生は栄養繁殖するので、その廃棄芝を捨てずに校庭に撒けば、新たなグラウンドになるという流れです。
緑化する前に、園や学校の人とディスカッションしてゴールの設定をすることが大事です。どういうレベルで芝地があるべきなのか、例えば、雑草が生えていてもいいから一面緑になればよいんだったら、園の人でできるレベルの管理だから、肥料の撒き方などについてアドバイスをして自分たちでやってもらう。でも、一流の競技場みたいにしたいのであれば、さすがに難しい部分もあるからグリーンキーパーが手入れをするというように運営しています。
基本的に園庭緑化もやらされ仕事だと維持管理が継続しないので、やりたいと希望されるところの緑化をするようにしています。
それはゴールの設定次第で、自分たちでやり方を考えるのはありだと思う。
一つ例として挙げると、緑化したグラウンドでキャンプファイヤーができなくなったっていうところがあったんだけど、やってみたら灯油を使わずキャンプファイヤーをして、終わったら芝を直せばいいって結論になったんだよね。
日が当たって排水がよければ芝生はけっこう強いから、なんでもやってみればいい。やってみたらそれをどうするかで新たなコミュニティも生まれると思うし。
中央区のイクシバ!プロジェクトというのもあって、そこの取り組みも面白いなと思っています。
ぜひ来てください。ありがとうございました!
4年生。背番号7。中高ソフトテニス部で、大学からサッカーを始める。昨年主将を務めた。農学部で土壌や作物について学んでいる。